師走に置いてかれる

小説だったり映画だったり主に作品の感想が多めだと思います

【感想】仕方ないね『ボトルネック』

 米澤穂信さんの小説。評判も良かったから早く読みたかったのたが、結局半年ぐらい積んでいた。その感想。ネタバレありまくりなのであしからず。

 

 あらすじから何からを確認して、やっぱり暗い話なんだろうとは思っていたが想像以上に辛辣でビックリした。最後のほうはなおのこと、途中のボトルネックのくだりから色々となんか思い当たってしまって、そこから絶妙な気持ちで読んでいた。

 

 まずなんと言っても嵯峨野家の家庭事情だが、僕の浅い経験上だが創作の中でこれほど酷い家庭環境は知らない。わりと現代的な時代で描かれているせいで、妙にリアリティがあるような気がして正直胸糞というほかなかった。浮わついたことだけならまだしも本当にしょーもない理由で子供にご飯と値するお金を与えない母親に、一種の殺意さえ沸いてきた。そして最後も母親だったが、本当に。

 

 家庭の面々はそんな感じだが、姉のサキは終始明るさを含んでいて、陰湿な読み味が多い中でかなりの癒しであった。本当に希望的存在としていると思う。特に原付で後ろに乗せてくれる場面とかパスタ作ってくれる場面とか、そういう部分で温かさが感じられて偉大だと思う。主人公はやっぱり陰なんだろうけど、それに相対するように太陽のようで気持ちの良い姉。最終盤に差し掛かるまでは孤独すぎる主人公はこの人に救われてるものだと思ってた。そういうふうに落とすともずっと思っていた。

 

 兄の言ったありきたれの励ましみたいなことを読んだときに、こいつは別に悪い奴ではなくて色々とバカでガキっぽいんだけど憎めない奴なんじゃないかと思った。そしてこの兄は主人公が自ら認めたように自分と似ているということ。つまり僕が上で思った感想は、そのまま主人公のリョウに対しても言えることなのだと思う。

 

 ノゾミに関しても僕は若干乗せられていたと思っている。やっぱり主人公と関わる中で彼女も変わっていき、良い感じになったんだけれども事故ってしまったという想像。ありきたりだがそう思っていた。それがそうではなかったということでは飽きたらず、別に主人公だからということではなく誰であっても救われたとされ、そして挙げ句彼女は救い手の模倣であるから彼女を愛していたのではなく、ただ作り上げた自分が好きだっただけとか。主人公に対して痛烈すぎる事実。笑いさえこみ上げてくるような。

 

 主人公であるリョウというのは、本当に、別に何も悪いことなどしていないのだ。それなのにこれほどまでに打ちのめされるのは、不幸とかそういう次元ではない。相対するサキも特別悪いことはしていないと思われるが、彼女の行動力故にもしかしたら何かしら迷惑を被った人がいるかもしれないが、それでもサキはそれが余りあるほど多くの人を救ってきたのではないだろうか。そういう意味で本当にヒーローのようなキャラクターだが、それが強ければ強いほど、主人公にかかる陰は深くなっていってしまうのも、構造時代が本当に地獄のよう。

 

 主人公のリョウが最後にどうしたのかというのはもう散々語り尽くされていると思うが、個人的にはやはり駄目だと思う。というかあそこから巻き返すとして、でもどうしようもなさすぎてそんな気すらおこらないとしか思えない。トドメとしてのあのメールなのだと思うけど、逆にあれが楔になるという考察も、まったく想像外で面白かった。それにしても、直前で希望をちらつかせておいて最後にあのメールをぶっこんでくるのは、読んでて本当に息が浅くなってしまった。ツユから電話がきたとき結局救われると思ったもんね。本当にえげつない。

 

 主人公は物語開始時点でも本当に悲惨な状況にいるわけだけど、その上でパラレルワールドに飛ばされて、尚且つ違いを見つけていくと自分は本当に世界的に邪魔なんじゃないかと気付かされるのは形容しがたいほどに鬼畜な気がする。読んでるときはこのままパラレルワールドに住み着くんじゃないか、色々と言っていたけれど結局それもヒーローの如き姉のサキが全て救ってくれるんじゃないかと、そう思っていたけれどやっぱり戻されてしまう。戻された主人公には、開始時点のものにさらに上乗せされたパラレルワールドの感覚を身につけているわけだから、本当にどうしようもなく可哀想。裏表紙のあらすじにもあるように、世界のすべてと折り合えない。帰ってきても、大してそれは変わらない。

 

 とにかく悲惨だとか可哀想だとか地獄だとか書いてるが、やっぱりそれは物語の世界であって、まぁ色々とショックを受けたけどもそれを含めて正直最高だった。同作者のさよなら妖精を読み終わった時も同じ様な感じではあったが、あちらのほうがまだ救いがあるような気がして、もちろん相対的でしかないが。読み返したいと思うのに、今すぐにはそうしたいと思わない。きっと1年ぐらいしたらまた読むと思う。とにかくあまり寝れそうにないということだけは分かる。評価は"神"とさせていただきたい。