師走に置いてかれる

小説だったり映画だったり主に作品の感想が多めだと思います

ANONYMOUS;CODEでの自己満足

 ANONYMOUS;CODE及び科学ADVシリーズのネタバレに注意

 

 

 ANONYMOUS;CODEは科学ADVシリーズの例に漏れず、主人公はヒロインと出会いそしてラブロマンスが展開される。同シリーズにおいては定番の様式である。もっとも今作は、心なしかその要素は薄めではあると思っている。

 

 同シリーズでは、これまでにも主人公の自己満足が示されてきた。中でもやはり特筆すべきなのはSTEINS;GATECHAOS;CHILDだろう。STEINS;GATEでは、ヒロインは記憶を失ってしまうが主人公は記憶があるという主人公〇ヒロイン×のパターンが示された。CHAOS;CHILDでは、最終的には主人公もヒロインも記憶に欠けがない状態での結末。つまり主人公〇ヒロイン〇のパターンが示された。STEINS;GATEでは、やり遂げたことが故に運命的な未知の再会を果たす。CHAOS;CHILDでは、お互いを認知したまま結末にたどり着いたにも拘わらず、主人公の贖罪と願いが故に決別する。

 

 どちらも素晴らしい作品で、尚且つ締りの良い結末であることに疑いはないだろう。しかし今一度再考してみると、どちらの主人公の選択も自己満足的だということも事実だと思う。STEINS;GATEでは、そもそも主人公が何かを変えたとしてもそれは主人公にしか認知できないという、何をしても自己満足にしかなりえない環境だ。CHAOS;CHILDでは、あまりの崇高さを含んでいるため気にならないということもあるのだろうが、見方によってはあの結末は主人公の自己満足をヒロインがほとんど完璧な形で承諾したという様に見ることができる。どちらもヒロインのことを第一に考えたという風であったが、結局それが認知されることも、覆されることも、彼らはまったく念頭に入れていないのだ。大した問題ではないというのも事実だろう。実際物語の中では、最善を選ぶということならもうあれ以上にどうしようもないのだろうから。

 

 ANONYMOUS;CODEでもやはり自己満足が示されている。パターンを先に捉えると、主人公は記憶を失ってしまいヒロインは記憶を保っているという主人公×ヒロイン〇というパターンだ。今回は主人公の記憶が持続していない初のパターン。主人公という性質上プレイヤーとある種同化することがある故に、そもそも主人公が記憶を失うというパターン自体少し稀有なのではないだろうか。主人公はヒロインの犠牲を看過することができず、もう一度最初からやり直しそして世界とヒロインの両方を救うが、自分のヒロインに関する記憶は一つも残らない。

 

 今までと異なるのはやはり結末に際して主人公の記憶がないことで、そうなるともはや自己満足が成立するのかどうかも定かではなくなる。自身の希望は叶えるが自身でそれを認知することはない。動機から完了までは今までの作品通り自己満足で動いていると言える。しかし新しい世界ではその意思はもうどこにもない。

 

 私は過去の感想に、「ANONYMOUS;CODEは最終的には希望に溢れているからそこまでビターではない」という様なことを書いたのだが、これは少し間違っていた。願いは成就されるがそれを認知することはない。確かに自己満足からは少し外れている。満足すべき自分すらもう存在しないのだから。ではそう願い目的を成し遂げたポロンは、結末に際して幸福だったのだろうか。岡部も宮代も、結末は違えど自己満足という観点では両方とも完遂している。ANONYMOUS;CODEで最後に幸福だったのは、我々アノニマスではないだろうか。あの作品の中で我々はただの傍観者ではなかった。結末にいたる手順も、主人公が託しアノニマスが成しえる必要があった。希望が溢れているということに関して言えば、私の感想は間違いではなかっただろう。しかし、CHAOS;CHILD以上に幸福だと早合点したことは、修正しなければならない。

 

 ANONYMOUS;CODEでのパターンは、正確には主人公×ヒロイン〇ではない。そこには我々も含まれている。あの結末はそう思わせてくれる。共に成し遂げた願いの結末を、我々は確かに観測した。自己満足の果てとしては、今までで一番高潔であると考えざるを得ない。