師走に置いてかれる

小説だったり映画だったり主に作品の感想が多めだと思います

憧れの端を掴む

 なにかを購入した日やその翌日は、だいたいそのことで頭がいっぱいで始末に負えない。それこそ眠ってしまえるまでずっと動画やブログを見続けている。それは今も変わらない。

 

 PCも持っていないのに初めてキーボードを買ってもらった時も同様で、タイピングで手が疲れたらキーボードのことを調べるというのを繰り返していた。もう何年前のことだか分からないが、そのときは認識していなくても確かに目が捉えていたものがある。キーボードに対する関心を持ち続けていくうちに、もちろんそれが何なのかは理解していく。HHKBだ。

 

 当時はまだ見慣れていなかった60%キーボードで、黒の存在ももちろん認識していたが、それよりもとにかく白のHHKBが私に強い印象を与えていた。どこかで見たことがあるような気を起させるあのノスタルジックな配色に無知ながら引き寄せられていた。しかし今にして思えば、ただそれだけに魅せられていたのではないという事が分かる。先に書いたように、同じ形状でも黒のHHKBに対する印象は薄いものだったし、それはキートップを自在にカスタマイズしたものでも同じことだったはずだ。ならばなぜ白のHHKBがそこまで印象に残っていたのかだが、ずばり私は白のHHKBを支えていた基盤に、その基盤の黄色く色褪せてしまった姿に惹かれていたのだと思う。

 

 それはHHKBに限ったことではなく、例えば同じくキーボードであるRealForceの白でも本の日焼けでもファミコンでも同じだった。いつからかずっと、私は白いものが黄色くなってしまっているのが好きだった。元の白の状態が気に入っているからこそ感じられる情緒が、たぶん好きなのだと今は分かる。

 

 キーボードに関心を持って以来、HHKBはずっと憧れの対象であった。PCを手に入れてから間も無く、私はほとんど迷わずにRealForceの変荷重を購入した。意識していなかったがこれも白だった。なぜRealForceだったのかと言われればやはり値段の問題だ。2万円で手に入るRealForceか、US配列なんてもっての外でJISしか選択肢がないため必然として3万円近く飛んでいくHHKBかという時に、HHKBを選ぶ胆力が当時の私にはなかった。しかし憧れが薄れていくことはなく、その後もいくつかのキーボードを購入したが、心にはいつもHHKBに対する欲が這っていた。

 

 そして現在に近い話になるが、あまり意図せぬ形でHHKBを手にする余裕が出てくる。ずっと欲しかったquest2を手に入れたが思っていたものと違っていたので売却したという事を皮切りに、私は使っていたいものを売るようになったのだ。いつしか売上金はHHKBの最上位モデルであるHYBRIDtype-sが買えるほど積みあがっていた。売上金というものは不可解なもので、なんというか元々は存在しない金という感覚があり、すぐに使いたくなってしまう。タイミングも申し分なく、限定品だった真っ白な雪モデルがちょうど定番ラインナップになったばかりの時期だった。もちろんそうなったらずっと焦がれていたHHKBを手に入れようという思いが停止するはずもなく、購入一歩手前というところまで進んだのだが、気まぐれにある事実が私の視界に入った。それは私を少なからず失念させた。

 

ご安心ください。
今発売されている「HYBRID Type-S」「HYBRID」「Classic」の白のボディには、AES樹脂を使用しています。
このAES樹脂は、旧モデルの白のボディに使用されていたABS樹脂からさらに耐候性を向上させたものになります。

黄変するような添加剤を入れずに成形しているため、紫外線をあてても劣化しづらく、ほとんど黄ばみません。^^

キートップには、PBT樹脂を使用しています。こちらも耐久性に優れた、汚れにくい素材です。黄ばみもほとんど発生しません。

 

引用元:HHKB博士に聞く!購入前に知っておきたいHHKBの基礎~カラー編~

引用元URL:https://happyhackingkb.com/jp/life/hhkb_life17.html

 

 

 人は見たいものを見るというのはどうやら真理のようで、そういう対策がなされているということを考えもしなかった。いや、正直に言えば、その部分が対策されるなんて全く頭の中になかった。さらに色々と見ていく内に、黄色く変化していくことを好意的に捉えることが別に多数派ではないという事が分かってきた。当然と言えば当然なのだ。新品の綺麗な状態で、もちろんそれに惹かれて購入する人だって少なからずいるはずなのだ。真っ白な雪モデルのような物であればなおさら。それは分かっているのだが、それでもこの事実は堪えた。そうして現行モデルは選択肢から颯爽と消えていった。

 

 思えば私が初めてHHKBを見たのも、現行のモデルが発売される前だったはずだ。それに現行モデルでも、ネットの海では見つけられなかったが、白であれば黄色く変化する可能性はある。しかし公式に情報が出ている以上望み薄だろう。私はどこまでも黄色く変化していくHHKBを求めていたのであり、そうじゃないのであれば率直に意味がない。心持が微妙な売上金と一度手にする寸前まで進んでしまった心を戻すことは出来ず、結局私はProfessiona2を購入した。

 

 

 この記事も当然このキーボードで書いているが、今までずっとJIS配列を使っていたので少し違和感がある。それに中古のためなのか元々そうなのかは分からないが、ちょっと荷重が重い気がする。ひとつ前のキーボードがRealForceの30gだったので、それが手伝っているだけかもしれないが、だいぶ重い。RealForceの変荷重はもっと軽かったような。とはいえずっと欲しかったキーボードを所有し打鍵できることは、やはり嬉しい。今はまだ白と呼べるこのキーボードが、少しずつ憧れに近づいていくと思うとただただ胸が躍る。