『素晴らしき日々 ~不連続存在~』本編のネタバレに注意
2010年3月26日に、ケロQから発売された本作。2018年7月20日にはフルボイスHD版も発売された。筆者は同社の他作品をプレイしたことはなく、またアダルトゲームに対する造詣が深いわけではない。
本記事では、フルボイスHD版で追加されたシナリオも含めた全7ルートを、楽しめた順にランキングにして紹介する。もっともこの作品はルートごとの関りが強いため、純粋なそれぞれに対する評論にはならないかもしれないが悪しからず。
- 1. Jabberwocky
- 2. Looking-glass Insects
- 3. It's my own Invention
- 4. Down the Rabbit-Hole
- 5. Knokin'on haven's door
- 6. JabberwockyII
- 7. Which Dreamed It
- 総括
1. Jabberwocky
順番としては4番目に当たる本ルート。前のルートであるLooking-glass Insectsでも様々な謎がだんだんと解き明かされていく兆候があったが、本ルートでおそらくここまで積み重ねられたほとんどの謎が明言化される。
間宮卓司を媒介とした由岐と皆守の実態。若槻姉妹の真実など、正直に言えば物語としての種明かしはこのルートで爽快なほどに行われるため、以後のシナリオがほとんど消化試合の様な心持ちになってしまった部分もある。
しなしながら、それでも良いと思わされるほどに、謎が解けていく快感と共に、とても楽しさに満ちたルートであったのは間違いない。
Looking-glass Insectsの希実香ルートで存在感を放っていた皆守の実態が知れたことも嬉しかったし、コンピレーションとして今までフォーカスされなかった羽咲との絡みも、とても幸福感のあるものだった。そしてなにより、Down the Rabbit-Hole以来ほとんど姿が見えなかった水上由岐が戻ってきたという興奮が確かにあった。
由岐から見えなくなってしまい、孤独に暮れる皆守を由岐が抱きしめるシーンは間違いなく全編を通して一番だと言える。ちなみに一週目で羽咲のほうの選択肢を選んでしまい、あとで逢瀬をみることになってしまったことはかなり後悔が残る。
個人的には、このルートの悠木皆守に愛着が沸きすぎて、実際には黒髪で長髪の彼は皆守ではなく卓司のほうであるという設定があまり好きではない。
2. Looking-glass Insects
順番としては3番目のルート。まず、前のルートで間宮卓司の狂気を一人称でこれでもかと見せられているため、本ルートで登場する爽やかナイスガイな間宮卓司を見てたまげたし、そしてそこから推測される真実も伴って、加速するように面白くなったと感じる。
しかしながら、高島ざくろ本人の結末を描くルートとして、結末を知っていてもなお、そんなものを飛び越えていく胸糞なルートでもあった。あれが共通のルートとして起こったことだという設定に決めた制作人には畏敬の念を示したい。
そしてそれの反動かのように紡がれる、多幸感に溢れた希実香との百合ルート。百合に関してはただただ最高だったため強いて言うこともないが、このルートの間宮卓司のカッコよさには痺れた。
3. It's my own Invention
順番としては2番目。このルートは、Down the Rabbit-Holeも含めて全てのルートの基盤になっているようなルートなのだろう。おそらく、"素晴らしき日々"とはどのようなVNかというのを示すのであれば、このルート以上の適当はない。
前述したように、狂気性に溢れた間宮卓司の一人称を嫌になるほど鬱屈としたものであるし、Looking-glass Insectsまではいかないものの、このルートでも胸糞な描写、というよりもなんというかやはりまともではいられないような描写が多くある。
その中でもただただ謎だけが深まっていくので、これを超えればおそらく最後まで読み切れるのだが、ここで頓挫するという人がいたとしてもあまり驚かない。
それでも全てを読み終えた上で、このルートでのプレイ体験はとても作品として無比の存在ではあると感じる。間宮卓司がもたらす狂気というよりも、彼の持つ不可解性をそのまま体験させるような表現はとても秀逸だろう。
このルートでも希実香と関係を結ぶようなルートがあるのだが、ここで本格的にこの希実香というキャラクターの、本筋から若干外れているからこそ醸し出される安心感と可愛さを実感し始めたのを覚えている。個人的にED自体がとても好き。
4. Down the Rabbit-Hole
最初のルートであり、少し奇妙なルート。とても軟派なように始まる非現実的恋愛シュミレーションが、だんだんと得体のしれないものに覆われていく感覚は迫力があった。
個人的に全編を通して一番トラウマになっているのは、やはりアトラクションの場面だ。ここから一気に世界に対して疑問を持ち始める感覚があった。
そしてクリアした今となっては、夢の世界から抜け出す際にざくろが綴る独白がだんだんと身に染みてくるよう。夢の世界は実際どういう時間軸なのか未だに理解できていないが、それでもとても意味のあるルートなのは分かる。
夢から抜け出した後のルートに関しては、これはIt's my own Inventionと合わせて基盤的なルートなので、あまり固有の感情はない。
5. Knokin'on haven's door
フルボイスHD版が発売されるにあたって、追加で収録された後日談のようなルート。どういう意図なのかは分からないが、立ち絵を表示しての進行ではなくスチルを切り替える形の進行になっている。
内容がどうということとはあまり関係がないし、これは本編でもその傾向があったと思うが、特にこのシナリオでは、若干会話の部分で冗長な場面が目立つ。
しかしこれは既にオリジナルをクリアした上で、数年越しに『素晴らしき日々』に触れるファンへのサービスという側面もあるのだと思うので、合点がいかないわけではない。それでも間延びしてる感じは否めなかった。
とはいえ、現行で出ている『素晴らしき日々』の物語の完結として、やはり最後の場面はとても価値のあるものだろう。確実に世界を生きていく間宮皆守と、特に何もしない、ただ一緒に歩く存在としての水上由岐。このコンピレーションは本当に素敵だし、それを顕在させるかのようなクレジットの絵が最高。
6. JabberwockyII
オリジナルとしては最終章にあたる6番目のルートで、EDも3つある。
前述したように、個人的にはJabberwockyで盛り上がりすぎて、その後であまり盛り上がれなかった感覚がある。このルートでは全ての始まりである過去の話も語られるが、それらも概ね知っているか推測できることだったため、あまり入り込めなかった。
間宮卓司が飛び降りたことに対して、どのような対処によってそれを退けるのかというのも期待していた部分ではあったが、特に感慨があるようなものではなかっただろう。
素晴らしき日々エンディングで語られる哲学性は、しっかりと物語の締めに相応しいものだった。しかしその上で見ることに出来る終ノ空2エンディングで、さらに謎が深まる形になったのは若干消化不良であるような気もするが、考察のしがいがあるものであるとは思うので、意図的なのかもしれない。
7. Which Dreamed It
順番としては5番目のルートで最終章JabberwockyIIに直接繋がる。それゆえに前座感が拭えないし、新しく示される事実や出来事も特にない。
加えて分岐もないため、本当にただ終わりへ向かうために読み進めなければいけないようなルートなのが少し惜しい。Jabberwokyの濃密さを少しこちらに分けることが出来れば良かったのではないか。
総括
前述したように、そこまでVNに対する造詣も深くないし、ましてや電波系の傾向が強い作品は本作が初めてだったのだが、It's my own Inventionを超えてからはかなり楽しい体験ができた。
本記事では主にシナリオに焦点を当てて書いたのだが、哲学性の強い作品故に、まだまだ書けることがあるような気もする。またサウンドドラックも全体的に素晴らしく、内容とギャップのあるヒーリング感の強い曲の数々はとても耳に残っている。名曲と名高い『夜の向日葵』も、作品を知っているのと知らないのとでは少し違った存在感を表す。
ルート間の温度差はあれど、最終的にとても良い作品に出合ったという感慨は間違いなくある。繰り返し読みたくなるようなゲームではないが、素直に盛り込まれた哲学性から様々な啓蒙を得たような感覚さえある。OSTを聞けば、いつでもこの素晴らしき日々を思い出すことが出来るだろう。